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東京地方裁判所 昭和33年(行)144号 判決

原告 本宮五郎

被告 東京都知事

主文

原告の請求は、これを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人の陳述した請求の趣旨、原因は、別紙記載の通りである。

被告指定代理人は本案前の答弁として、「本件訴はこれを却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、その理由として、

(1)  原告は、被告が昭和二十四年四月四日付で原告主張の土地の所有者たる訴外須藤理助に対してなした換地予定地指定処分の無効を主張するけれども、右処分は須藤理助に対して為されたものであつて、原告に対して為されたものでなく、従つて、原告は、右処分と何ら関係のない第三者であるから、原告はこれが無効確認を求める利益のないものである。

(2)  原告に本件土地の使用収益権があるかどうかは、原告と須藤理助との間における債権関係に過ぎず、かりに、原告にそのような権原があつたとしても、そのことと、本件処分の効力とは何ら関係なく、従つて、本件処分により原告の権利が侵害されるというようなことも、あり得ない訳であるから、原告は本件処分の無効確認を求める利益がない。

(3)  原告はその主張する土地の賃借人でなく、かつ、これを占有使用し得る権原を有しないものであるから、本件処分とは全く関係のない第三者であり、従つて、これが無効確認を求める利益を有しないものである。

即ち、本件土地の属する地番の土地一帯は、昭和二十一年十月一日東京都告示第五〇六号をもつて東京都復興都市計画土地区画整理施行地区として告示が為されたものであつて、原告は本件土地が将来区画整理その他公共の必要の生じたとき、その地上の設備一切は撤去し、立退かねばならぬ土地であることを、充分承知の上、臨時に、一時使用のため須藤理助より借受けたものであり、かつ、借受けの際、須藤の代理人たる訴外宮本堤に対し、前記のような場合には直ちに立退く旨の誓約書(乙第一号証)を差入れているのであつて、原告は、本件土地に対して借地法上の期間の定めのない借地権者でない。そうして、原告主張の建物は土地区画整理施行の必要上、昭和三十二年十月九日除却されたのであるから、原告は、本訴提起当時(昭和三十三年九月)においては、本件土地に対し何らの権限も有しないものである。もつとも、原告の須藤理助に対する借地権の有無については、別件として訴訟係属中である。

なお、原告は、前記告示後、被告に対し、旧特別都市計画法施行令第四十五条但書、或は、土地区画整理法第八十五条第一項による権利申告はいづれもこれを為していない。

旨陳述し、

本案に対する答弁として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因第一項の事実は否認し、同第二項の事実は認め、同第三項、及び、同第四項で主張する趣旨は総て争う、旨陳述した。(証拠省略)

右被告の主張立証に対し、原告訴訟代理人は本件土地の借地権につき、原告と須藤理助との間に訴訟が係属中であることは認め、乙第一号証の成立も認める、と述べた。

理由

被告が、原告は本件仮換地指定処分の相手方ではなく、第三者であり、かつ、原告が従前の土地を使用収益し得たのは、訴外須藤理助に対する借地権(債権)にもとずくものであるところ、右処分によつては、原告の右借地権には何等影響がなく、従つて、原告は右処分の無効確認を求め得る利益がないと主張する点について考えるに、行政処分の相手方でない第三者でも、当該処分により具体的な法律上の利益を侵害される場合は、その処分の効力を争い得るものと解せられるところ、原告は、本件仮換地指定処分の従前の土地につき借地権を有し、これを使用収益していたと主張するのであるから、右仮換地指定処分により、少くとも被告に対しては従前の土地の使用収益はできなくなるものであり、その点において右処分について法律上の利害関係を有し、右処分の効力を争いうる第三者ということができるから、被告の右主張は採用できない。

ところで、本訴における原告の主張は、要するに、被告が昭和二十四年四月四日付で、訴外須藤理助に対してなした換地予定地指定処分は、換地予定地の使用開始の日を「別に通知する。」として制限しながら、その使用開始の日を確定していないことは、旧特別都市計画法(以下単に旧法という)第十四条第三項、土地区画整理法(以下単に新法という。)第九十九条第二項に違反し、右換地予定地指定処分は無効な処分であるというにある。

ところで、換地予定地、或は仮換地(以下、両者を単に仮換地という。)指定処分に関しては、旧法においては第十三条で、新法においては第九十八条で仮換地の指定、及び、指定の通知の方法に関し規定し、旧法第十四条第一項、新法第九十九条第一項で仮換地指定の効果について、仮換地の指定により、従前の土地については使用収益し得なくなり、その代りに仮換地を従前の土地に対すると同様に使用収益でき、その仮換地の使用開始できる日は、旧法では仮換地指定通知を受けた日の翌日、新法では仮換地指定の効力発生の日と規定しているのであつて、右の日以後は、仮換地指定の通知以外に何らの通知を待たずに仮換地を使用できることを原則としている。しかしながら、仮換地上に建造物等仮換地の使用収益の妨げとなる物件が存するとき、その他特別な事情があるときに限り、仮換地の使用開始日を別に定めることができる旨規定(旧法第十四条三項、新法第九十九条三項)されているのであつて、右の各法条から明らかな如く、仮換地の指定通知と、仮換地の使用開始日を別に定める通知とは、形式上は一応別個なものといわなければならず、たゞ、新法においては第九十九条二項後段で、使用開始日を別に定める通知は、仮換地指定通知とあわせてしなければならない(旧法では使用開始の日を別に定める通知は、何時してもよいとも解せられるような規定の仕方である。)旨規定している。

そこで、原告は、仮換地使用開始日を別に定める通知に、本件のように「使用開始の日は別に定める。」というのみで確定日を示さないのは、従前の土地に対する使用収益権者に対し、従前の土地の使用収益を禁止すると共に、仮換地の使用収益をも不確定的に禁止するものであり、私人の土地に対する権利を剥奪する結果となり、土地区画整理により私有財産権を制限し得る限度を逸脱した違法なものであるから、仮換地指定そのものも無効であると主張する。

しかしながら、土地区画整理事業の実施に当つては、広範な土地全部にわたり、一斉に終局的な換地を指定し得るものでなく、又、その区域内の建造物等の移転、除却等には相当長期間を要し、区画整理作業が可能な個所より順次これを行うような方法を執らなければならず、従つて、区画整理事業は相当長期間にわたるのが実情であるのは当裁判所に顕著な事実である。したがつて、その事業実施期間中の、土地所有者、或は、利害関係人相互間の権利関係の安定をはかり、一方、換地処分完了と殆んど同程度の効果を得させて、私有財産に対する制限を最少限度に止めるため、仮換地の指定をなすわけである。

ところで、仮換地の指定を為すに当り、仮換地が事実上使用可能な状態になつてからでなければ指定し得ないものとすれば、極く小範囲の土地を一個所宛順次為さなければならぬ結果となり、区画整理事業の円滑な実施は望むべくもなく、ここに、仮換地が使用できない状態のまま、使用開始日を別に定めて仮換地を指定する必要も生ずることは、容易に肯首しうるところである。

そうして、この場合において、仮換地が事実上使用可能な状態になる日、換言すれば、仮換地の使用を妨げるような事情を除去し得る日時を、仮換地指定の当初から確定的に予定することは困難な場合もあることは予想しうるところである。しかし、それが困難であるからといつて、仮換地上の建造物等が除却される日まで仮換地の指定を待つていることは、前記の通り整理事業を長引かす結果となる。これらの事情を考慮すれば、仮換地使用開始日を仮換地指定の当初から確定することは実際上容易でなく、又、区画整理事業の円滑な実施という点からいつても、必ずしも良い結果を来すものではない。

これを、反面、仮換地の指定を受けた者の側から考えると、仮換地の使用開始日を別に定めるという場合には、法律の規定上からは従前の土地も使用し得ないし、又、仮換地も使用し得ない結果となる(但し、使用開始の日を確定して通知した場合においても、その期間中、双方の土地が使用できない点は同じである。)とはいえ、従前の土地上に建造物等がある場合には、法定の手続により、これが除却されない間は、その建造物等を使用収益することは許されており、従前の土地の使用収益を継続し得るのであるから、実際上は、必ずしも、仮換地の指定により直ちに従前の土地を使用できなくなり、又、仮換地も使用できなくなるわけではない。本件においても、原告は、本件土地に対し賃借権を有し、地上に建物を建てていたと主張するのであるから、その建物が移転、或は、除却されない限りは(建物が移転、又は、除却されたとの主張はない。)実際上は従前の土地を使用収益できるわけであり、一方、既に、仮換地が指定されているわけであるから、一応建物を移転し得る土地もあるわけである。

以上、述べたような諸点を考え合せるならば、仮換地の使用開始日を別に定める場合には、使用開始日を確定して通知することは、仮換地指定を受ける者の側からすれば望ましいことでもあり、又、新法第九十九条二項の規定もこのことを予定しているものと解せられるけれども、同法条が使用開始日を確定せずに通知するときは、仮換地指定そのものまで無効とする趣旨の規定であるとは解されない。ことに、本件において、原告が主張するような仮換地使用開始日の通知が、仮換地指定通知そのものまでを無効としなければならない程の、重大なかしがあるものと認めるに足る特別の事情については何等主張されていない。

よつて、仮換地指定通知と同時に、仮換地の使用開始日を確定しないことのみを無効原因とする原告の主張は、それ自体理由がないことになるから、その余の点に関する判断をまつまでもなく、原告の本訴請求は失当として棄却すべく、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 石井玄)

(別紙)

請求の趣旨

被告が訴外須藤理助に対してなした昭和二十四年四月四日附別紙目録記載の換地予定地指定処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との裁判を求める。

請求の原因

一、原告は昭和二十六年五月十七日頃別紙物件目録記載の土地をその所有者である訴外須藤理助より期限は特に定めず、賃料は一ケ月四千六百円也(その後五千八百円也に増額)と定めて賃借し、その地上に別紙物件目録記載の建物を建てて土地を占有使用してきたものである。

二、而して、右土地の属する地番の土地一帯は特別都市計画法に基つく土地区画整理施行地域とされており、被告は同法第五条第一項の土地区画整理のため必要あるものとして同法第十三条第一項に基つき右土地につき別紙目録記載の通り換地予定地の指定処分をなし、昭和二十四年四月四日同法第十三条第二項、第十四条第二、三項に依り従前の土地の所有者たる訴外須藤理助に対して換地予定地指定通知を発し、その頃右通知書は同訴外人に到達した。

三、然しながら、被告が昭和二十四年四月四日発した前記換地予定地指定行為に付次項以下に述べる如き理由で重大且つ明白な瑕疵があるから無効の行政行為である。即ち

(一) 昭和二十四年四月四日被告が訴外須藤理助に対してなした前記換地予定地の指定は特別都市計画法第十三条、第十四条第二項及第三項に基きなされたもので、それによると「土地区画整理の施行による第十地区内貴殿所有の左記土地に対し別紙図面の通り換地予定地を指定した」「但し換地予定地の使用開始の日は別に通知する」と言うのである。よつて右換地予定地の指定は、換地予定地に建築その他の工作物が存するときその他特別の事情なるものがあるので同法第十三条のほか特に同法第十四条第三項に基いてなされたものであることが判る。ところが、その後土地区画整理法が昭和三十年四月一日より施行され、同法施行法第一条により特別都市計画法は廃止されたゝめ同法第十三条、第十四条は本件の換地予定地指定及同通知の効力を定める基準法でなくなつた、そこで土地区画整理法施行法を吟味するに同施行法第五条第一項第六条によれば「新法の施行の際現に行政庁が施行している旧特別都市計画法第五条第一項の土地区画整理は新法の施行の日において同法第三条第四項の規定により施行される土地区画整理事業となり、当該行政庁はその日において同法同条同項の規定によりその土地区画整理事業を施行する者」となり「………前条(第五条)第一項の規定により土地区画整理事業となつた土地区画整理についてそれぞれ土地区画整理事業となる前に………旧特別都市計画法の規定………又はこれらの規定に基く命令の規定によつてした処分、手続その他の行為は新法の適用については、同法中これらの規定に相当する規定がある場合においては、同法の規定によつてしたものとみなす」のである。本件区画整理は行政庁たる東京都知事が特別都市計画法第五条第一項に基いて施行するものであるから本件土地について、東京都知事が昭和二十四年四月四日なした換地予定地の指定及び同通知の効力如何については、土地区画整理法の施行された昭和三十年四月一日以降は特別都市計画法第十三条第二項第十四条第二項第三項によつて決せられるのでなく、土地区画整理法に同法条に相当すると解される法条の有無を吟味し、相当法条の存する場合、その該当法条によつて決せられるわけである。

(二) そこで、旧特別都市計画法第十三条、第十四条第二項第三項に相当すると解される法条が土地区画整理法にあるか否かを検討する。

〈1〉 特別都市計画法第十三条第一項は「第五条第一項の土地区画整理のために必要があるときは換地予定地を指定することができる。」として、行政庁の特別都市計画事業として施行する土地区画整理について行政庁に換地予定地の指定権限のあることを規定する。

〈2〉 同条第二項は換地予定地を指定した際、その旨を利害関係者に通知することを規定する。

〈3〉 同法第十四条第一項は換地予定地の指定の一般的効力として従前の土地の所有者等は指定の通知をうけた日の翌日から換地処分の効力を生ずる迄、換地予定地を使用収益することができ、反面従前の土地については使用収益することのできないと規定する。

〈4〉 同条第二項は従前の土地所有者等が使用収益しうる換地予定地の場所的範囲を換地予定地の指定通知と併せて土地所有者等に通知すると規定し(本来場所的には全部を使用収益し得る立前を特に制限するのであるから指定通知以後の別途通知を禁止するものと解する)

〈5〉 同第三項は従前の土地所有者等の使用収益しうる換地予定地の時間的制限をなし得ることについて「別に使用開始の日を定めることができる」がこれとても土地所有者等に通知を必要とするという方式で規定する。後に詳述するが換地予定地の使用収益の場所的制限と時間的制限とについてその通知の方式をちがえて表現されているが(前者は併せて通知、後者は単に通知)換地予定地の指定処分の本質からみて大差ないものとみなければならない。

次にこれらの規定に相当する法条を土地区画整理法についてみるに、

〈1〉 土地区画整理法第九十八条は区画整理事業施行者に仮換地の指定権限のあることを規定し、仮換地の指定をする場合との旨を利害関係者に通知する旨を規定する。特別都市計画法第十三条に相当するもので、たゞ土地区画整理法か第九十八条第四項で通知事項を定めているので、こゝに定められた通知事項を欠く特別都市計画法第十三条の通知は無効とみるべきだが、通知事項中「効力発生の日」は、特別都市計画法第十四条第一項に「通知をうけた日の翌日」と一般的に規定しているから、特別都市計画法第十三条の通知に「効力発生の日」を欠いても、いちがいに無効とはならないと言うべきであろう。

〈2〉 同法第九十九条第一項は仮換地の指定の一般的効力を規定するが、これは特別都市計画法第十四条第一項と同趣旨の規定である。

〈3〉 同条第二項は施行者が従前の土地所有者等の仮換地の使用収益権限の時間的制限(開始することのできる日を定めるという方式で)をすることができる旨を規定し、かかる場合、使用開始日を仮換地指定通知にあわせて通知しなければならないとする。これは特別都市計画法第十四条第三項に相当するが特別都市計画法第十四条第三項は使用開始日は土地所有者等に通知すると単に規定するのみで一見するところ使用開始日の通知を何時如何なる方法でしなければならないか施行者の自由であるかのようであるが、(この場合でもその通知は換地予定地の指定通知に同時にあわせてなさねばならない)土地区画整理法第九十九条第二項は使用開始日の通知は仮換地の指定通知と同時に、しかもあわせてやらねばならないと規定する。従つて特別都市計画法第十四条第三項を機械的に解してもその通知が効力あるためには土地区画整理法第九十九条第二項の要件を充足して、仮換地の指定通知と同時に、しかもあわせてなされた場合に限るとみなければならない。

(三) 次に本件換地予定地の指定通知を見るに先にも述べたように換地予定地の使用開始日の通知が換地予定地の指定通知の但書として「換地予定地の使用開始の日は別に通知する」ということになつている。これは特別都市計画法第十四条第三項からみても、使用開始日の通知としては不充分であり違法であり、況んや土地区画整理法第九十九条第二項に違反することは多言を要しない。

即ち「換地予定地の使用開始の日は別に通知する」ということではそれ自体換地予定地の使用収益の不確定禁止を意味し使用開始の通知ではない。少くとも換地予定地の指定通知とあわせて通知したことにはならない(「換地予定地の使用開始の日は別に通知する」ということは換地予定地の使用開始の通知の留保に過ぎない。しかもこの留保は単に通知が留保されたという技術的な意味をもつに過ぎないものでなく、この留保によつて実体的に換地予定地の使用収益権が不確定に禁止されたのである。土地区画整理法は勿論、特別都市計画法を通じて、かゝる換地予定地の使用収益権の不確定的禁止をなし得る権限を区画整理施行者に与えた法条は存しない)なるほど特別都市計画法第十四条第三項には関係者に通知せねばならぬとのみ規定されており換地予定地の指定通知とあわせて通知せねばならぬとは規定されていないが、同法第二項には従前の土地所有者等の使用収益しうる換地予定地の範囲の場所的指定(制限)は換地予定地の指定通知とあわせてなされねばならぬとする法意からして従前の土地所有者等の使用収益しうる換地予定地の時間的制限がある使用開始日の通知も換地予定地の指定通知とあわせてなされねばならぬとされなければならない。ところが施行者の求める技術的便宜は本件におけるような通知でない通知が使用開始日の通知として慣用されるにいたつたので土地区画整理法はこの弊を矯めるため技術的便宜を否定して憲法の特に要請する国民の権利の保護の点から同法第九十九条第二項において使用開始日の通知は仮換地の指定通知とあわせてなされねばならぬと特規定したのであり、即ち土地区画整理法第九十九条第二項は本件の如き換地の予定地の使用開始日の通知はは、仮換地の使用収益を不確定に禁止したものとして違法であることを明らかにした。使用開始日の通知は少くとも、それまでの従前の土地所有者等の仮換地の使用収益を制限する意味をもつのであるから仮換地の指定処分と一体をなすものとみる外なく前記のような違法な使用開始日の通知を含む本件換地の予定地指定処分は全体として無数といわねばならぬ。

(四) 次に、仮換地の使用開始日の通知が仮換地の指定通知にあわせてなされねばならぬとすることは単なる技術的考量から規定されたものでなく、従つて官僚的理解にありがちな技術的便宜さで、どう扱かわれてもよいものではない。土地区画整理は公共の利益のため私所有権等の制限剥奪を伴うものであるが、かゝる制限剥奪が無際限に行われてよいのではなく、どこまでもその犠牲は最小限にとゞまるべきもので、仮換地の指定は従前の土地についての使用収益を禁止し、その反面仮換地の使用収益を許容される仮換地の使用収益を制限しうるがそのためには使用収益制限の範囲を最小に確定的に具体的に制限しなければならないとする考え方から土地区画整理法第九十九条第二項が制定されたもので従つてこの点に関する特別都市計画法第十四条第三項を修正して仮換地の使用開始日の通知は仮換地の指定通知とあわせてなされねばならぬとしたのである。即ち土地区画整理法第九十九条第二項は国民の基本的な財産権に根ざした憲法の求める厳粛な規定である。

四、以上によつて明白なように、土地区画整理法第九十九条第二項(特別都市計画法第十四条第三項)は国民の権利義務に関する重大な法規であり、且つその法規違反は重大な法規違反であり且つその法規違反は、当然必要な使用開始の日の定めがないという点で外観上明白である。

而して右の如き仮換地の指定処分及びその通知が無効であると原告が訴外須藤理助より賃借した土地は依然使用収益し得ることゝなり、更に被告の適式な仮換地の指定がなされゝば、その使用収益権能は仮換地上に移つて存続することになるので原告は本件の無効確認を求める利益があり、本訴に及んだ次第である。

(別紙目録省略)

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